「面白い」を積み重ねてーキャリア教育講演会

キャリア

3月11日(土)、中学1〜3年生を対象にキャリア教育講演会を開催しました。先日の高校生対象の講演会につづいて、国立研究開発法人産業技術研究所(産総研)より、人工知能研究センター機械学習研究チーム・研究チーム長の瀬々潤さんをお招きしました。瀬々さんは、人工知能と呼ばれる技術の中でも基礎的な数学・情報科学を研究し、それを医学・農学などに応用する研究を行っています。今回は、人工知能研究に関する身近なトピックをはじめ、瀬々さん自身の生い立ち、研究者という職業などについてお話をうかがいました。

人工知能の現在

ちょうど1年前の2016年3月、コンピュータ囲碁プログラム「AlphaGo(アルファ碁)」が、世界最強ともいわれる韓国のプロ棋士イ・セドル九段との五番勝負を勝ち越したというニュースが世界をかけめぐり、人工知能に注目が集まりました。

 

ここ1,2年、人工知能(あるいはAI)という言葉を見聞きしない日はないくらい、日常的に人工知能に関するトピックに触れる機会が増えていますが、この「人工知能」とはいったいなんなのでしょうか。実のところ厳密な定義がまだなされておらず、専門家ではない私たちにとってはなんともつかみどころのないものともいえます。

 

人工知能の研究とは、「いかに賢くしていくか」という分野であり、その中でも中心部となっているのが計算機で、それは数学や情報科学と呼ばれる分野にあたる、と瀬々さんは言います。そして、画像認識による車の自動運転や癌の診断を行う医療システム、効率よく栽培できる小麦の品種改良への応用など、私たちの生活に関わる身近なトピックを挙げながら、生徒たちに人工知能の世界をイメージする手がかりが投げかけられていきました。

テクノロジーの進歩と人との出会い

つづいて研究者へのキャリアパスの話へと進みます。瀬々さんが小学生のころ登場したのが「ファミコン」でした。ブームとなったドラゴンクエストなどをプレイするだけでなく、「ゲームをどうやったら自分で作れるか?」と考え、計算機を使って音楽やゲームを作るのに夢中になっていたといいます。またこの頃は音楽も、カセットテープからCDへと移り変わっていく時代でした。

 

ユニークな先生に恵まれていたという高校時代は、3年生のときに高校生向けの合宿セミナー「数理の翼」に参加し、全国の高校生とも出会いました。違う土地で過ごす人が、どれだけ自分と違う感覚をもっているのかを知る機会となり、それまでは就職するか進学するか、将来のビジョンは漠然としていたけれど、この時出会った仲間に「もう一回会いたい」という思いが進学を決意するきっかけになったそうです。

 

そして東京大学に進学。大学入学時、普及したのがポケットベル(ポケベル)。しかしその4年後、大学を卒業する頃にはもう、携帯電話が普及し始めていました。そのとき瀬々さんが感じたことは「面白い技術があると4年間で世の中が変わる」ということ。「つまり、今みんなが『なくてもいいや』と思っていたものを、4年後、当たり前に持っているかもしれない。そういうことがあるかもしれない。そういうことに注力していくことは重要ではないかと思う」。

 

もちろん、人との出会いもありました。中高時代、脈略なくものごとを暗記することが苦手であることをどうにかしたいと考えていた瀬々さんは、脳について書かれた『脳を究める』などの著書に触れており、その著者である立花隆氏のゼミに出入りするようになり、おもしろい友達との出会いがあったといいます。さらに黎明期であったインターネットや、ロボット製作にも打ち込みます。さらに大学院時代には、スーパーコンピュータを使える機会もめぐってきました。

 

そんな学生時代、研究者になろうとは考えていなかったそうです。将来企業に就職するのなら、「今、楽しいと思うことをやろう」と延々と興味の赴くことに打ち込み、次第に周囲には研究者が多くなっていったといいます。

 

自身のキャリアパスについて、「ストーリーがあるわけではない。面白いなと思うことを積み重ねていたら、結果的に研究者になっていた」と語る瀬々さん。最後には「未来は連続している。日々を真剣に生きる」「研究者は誰よりも先に、未来を見ることができる」「発見自身も、発見を活かすことも、1人ではできない。友人を大切に」などのメッセージが生徒に託されました。

 

質疑応答の時間もいただきました。

「学者になって後悔したことは?」「人工知能の進化によって、失業する人がいると言われているがどう考えるか?」「10年後、50年後の未来はどうなっているか?」「『自信』をつけるにはどうしたらいいか?」「歴史上の研究実績に対して、批判的なことを考えるか?」ー生徒からのこんな質問に対し瀬々さんは、正解を教えてくれるというよりも、「あなたはどう思う?」と、再び問い返されているような、手加減のない言葉で応答してくださいました。

 

テクノロジーの進歩のうねりの中に好奇心のまま飛び込んでいった少年時代、学生時代の瑞々しさのままに、現在進行形に広がる「面白い」世界の一端をシェアしてもらえたような時間でした。

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