授業
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7月12日(火)~14日(木)の3日間にわたり、高校スーパーサイエンスコースの1年生を対象に夏季特別講義を実施しました。
SSCでは、1年次から「基礎研究」に取り組み、一人ひとりがテーマを設定し、自ら研究を行います。その研究成果は、学園祭や外部イベントで発表することになります。
基礎研究の第一歩となるテーマ設定のヒントや、これからの研究活動にも欠かせないアウトプットの技法へのアドバイスにとどまらず、将来の目標をどう定め、どう社会と関わっていくかといった未来へのガイドにもなるような、充実した3日間となりました。ふだん興味関心を寄せている科学の世界が、より広がりのあるものとして生徒の目に映ったのではないでしょうか。
1日目は昨年に引き続き、明治大学総合数理学部の佐々木貴規准教授をお招きしました。約40億年前の誕生以来、数々の困難を乗り越えてきた「生命」の話に始まり、佐々木先生が専門としている極限環境で生育する古細菌がもつロドプシン型タンパク質の物性を例に、生体分子がつくるネットワークについてお話していただきました。
タンパク質名を検索すると、その立体構造を見ることが出来るオンラインデータベース「PDB=タンパク質構造データバンク」を用いて構造を観察したり、京都大学が開発したバイオインフォマティクス研究用のデータベース「KEGG」で、生体分子のネットワークについて調べたりしました。
講義内容を詳しくまとめた記事はこちら(2015/08/31付「基礎研究に向けて」)です。
KEGGで見られる体内時計やがんのネットワークの例も紹介しているので、ぜひご覧ください。
2日目は、携帯電話やデジタルがジェットを専門に紙・ウェブ媒体で活躍されているフリーライターの白根雅彦さんを講師にお招きし、サイエンスライティングについてお話していただきました。
この講義では、決められた条件で文章を書く事前課題が生徒に出されており、前半は提出した文章を一つひとつ添削し、その解説授業を行いました。
課題の内容は「一般紙の特集記事内の短いコラムを想定して、『GPS』に関する文章を190~200字で書きなさい」というもの。スマートフォンやカーナビなど身近に活用されているGPS技術の仕組みや特徴を盛り込むことが条件です。
決められた字数の中で、GPSについて「正しく」説明することはもちろんですが、ここでポイントとなるのは、「一般紙の記事である」ということです。専門用語をただ並べるだけでは、前提となる知識を持たない読者には伝わりません。記事を読む相手を想像し、使う用語をどう取捨選択するか、場合によっては言い換えも必要となります。さらに身近な具体例を示すという工夫によって、より読者の理解を深めることもできます。
とはいえ、正確さを求めて具体的な数字を記載したはずが、それが「変化する数字」だった場合、誤った情報を伝えてしまうことにもなりえます。また、「どこでも」などのように、何気なく感覚的に使ってしまっている表現が、事実と相反していないかということにも注意が必要です。知り得た情報を取捨選択し、適切に表現するためには、対象となる技術を理解して、その妥当性を判断するセンスを磨かなければならないと、白根さんは話します。
後半のグループワークでは、GPSの「3つの距離が分かれば位置が特定できる」という仕組みを分かりやすくまとめて説明することにチャレンジ。地球と衛星を紙に書き出しながら、生徒同士意見を交わし合います。発表の様子からは、頭では分かっていることを簡潔にアウトプットすることに苦労しているのが伺えました。最後に白根さんから、人に分かりやすく伝えるための「シンプルな説明方法」を自分の中の引き出しに用意しておこうと、まとめとしてお話してくださいました。
3日目は、「情報のビジュアライゼーション(可視化)」がテーマです。ゲノム情報をはじめとする様々なビッグデータのビジュアライゼーションの専門家で、株式会社テンクー (Xcoo)のCEOである西村邦裕さんを講師としてお招きしました。
講義は、学生の頃から今までずっと、陸上競技を続けているという西村さんご自身 のお話から始まりました。そんな西村さんの高校時代は、インターネット元年、ネットバブル華やかなりし頃でした。いったいどんなことを考え、行動していたのでしょうか。
西村さんはその頃、ソフトバンク創業者の孫正義氏に影響を受け、ノートをつけるようになったといいます。「自分の50年計画」と題して、10年後、20年後、自分がどうなっていたいかということ、「起業をしたい」という思い、そして、バイオ、人間、表現、アート、IT、VRなど、今につながる様々なアイデアの種となるキーワードがノートいっぱいにつづられ、そのまなざしは「未来」へ向けられていました。
「未来を見ていると、未来の技術がつくっていける」、西村さんは言います。
未知の未来について考える手がかりを示しながら、講義はいよいよ本題へと進み、ビジュアライゼーションの2つの例を紹介してくださいました。
ひとつは、人間の生活を長期間に渡りデジタルデータとして記録したライフログを用いたもので、過去のデータの傾向から、近い将来の行動を予測する「未来を可視化」するという試みでした。もうひとつは、空港全体を使ったパブリックアートで、飛び立つ飛行機の情報などを可視化し、アートと融合させ、さらに空港を訪れた人に「体験」させるものでした。
後半のグループワークの課題は、「高校にまつわることを絵とデータを利用して紹介してください」というもの。取り組む上でのポイントは、(1)何のデータを、(2)どのように絵にして、(3)いかに紹介するのかという3点です。クラス内のネガネをかけている生徒の数というごく身近な事柄を取り扱うグループもあれば、全国の高校生の平均身長といったアプローチを試みるグループもあり、また、それをどう可視化させるかの工夫もそれぞれでした。