授業
授業
12月23日(日)・24日(月)の2日間にわたり、高校1年メディカルサイエンステクノロジーコース(MSTC)の生徒が、研究・開発に挑戦する中高生のための学会「サイエンスキャッスル2018関東大会」に参加し、口頭発表、ポスターセッションを行いました。サイエンスキャッスル参加にあたっては事前審査があり、エントリーした5つの研究班すべてが採択され、そのうちの1組が口頭発表にも選ばれました。
*サイエンスキャッスルについて詳しくはこちら(外部リンク)
MSTCは1〜2年次に「基礎研究」が設定されており、4月当初から各自がテーマを設定して研究活動に取り組んでいます。MITA International Festival(学園祭)をはじめ、中高生の科学アイデアコンテスト「つくばScience Edge」のほか外部で開催される学会など、研究成果をアウトプットする機会が設けられています。
*夏休み中の研究活動の様子などは以下の記事にまとめています。
関連記事:最先端の研究の場へー高1MSTC基礎研究
今回のサイエンスキャッスルに先立つ7月、MSTC1年の今村杏瑚さんの研究課題「水素ガスを用いた微生物培養系の開発とその評価」がサイエンスキャッスル研究費Honda賞に採択されました。これは本田技研工業株式会社と株式会社リバネスによって次世代の水素エネルギー研究人材を育むべく設置された賞で、「水素エネルギーに関わるあらゆる研究」をテーマとして募集し、研究費助成のほか研究コーチからのサポートを受けることができます。
【写真=8月に行われた研究コーチとのメンタリングの様子】
この研究が口頭発表にも選出され、共同研究を行った佐藤美結さん(MSTC1年)とともに、演題を「ミドリムシとHHOガスが植物に与える影響について」としてプレゼンテーションしました。
HHOガスとは水素と酸素が2:1の比で含まれる混合ガスで、人体に適用すると治癒力の向上や疲労回復といった効果があると言われています。このHHOガスをヒト以外の植物や微生物に対しても成長や増殖を促進するのではないかと考え研究に着手し、植物の水耕栽培やミドリムシ、プラナリアの増殖にもたらす影響について調べました。
今村さんはまず、ブロッコリーの水耕栽培実験を行い、HHOガスによる成長促進効果がみられることが分かりました。そして佐藤さんが所属する別の研究班では、ミドリムシには植物の成長を促す効果があることを明らかにしており、両班が共同研究をすることになりました。
今回の共同研究においては、ミドリムシの増殖実験とミドリムシを用いた水耕栽培実験の双方にHHOガスを用いてその結果を分析し、HHOガスが増殖や成長促進に効果があることが分かりました。さらに今村さんはプラナリアの増殖実験も実施、こちらもHHOガスが成長を促進している傾向が見られることを報告しました。
発表を終えた今村さん、佐藤さん、二人からは次のような感想をもらいました。
「ここまで練習したこと、時間をかけた準備が初めてだったので、時間をかけると良いプレゼンになるのだと感じた」
「ミドリムシ班とHHO班、別々のものを合わせるにあたって、お互いのことを知らなくてはいけないし、考えなければならなかった。その点がうまくできていたか不安だったが、できていたのではないか」
「準備の段階で、日頃からその場その場でもっと深く考えておけばよかったと感じたことが多かった。それができていればもっとしっかりしたプレゼンになったはずだと思う」
紹介できるのはほんの一部ですが、二人のコメントからは、準備にかけた時間や労力、発表時に感じたプレッシャーを経て獲得した手応え以上に、決してここがゴールではないという自覚と、自らの研究に対する熱量の高まりが感じられました。
一方、ポスターセッションに臨んだ他の研究班のテーマは次の通りで、審査員に向けての発表・質疑応答も行われました。その結果、微生物採取班がポスター部門の優秀賞に選ばれました。
・微生物採取班「薬のもとを作り出す微生物の探索」
・遺伝疾患班「タンパク質のアミノ酸変異と遺伝疾患の関連性」
・チョコレート班「カカオポリフェノールとミドリムシの増殖速度の関係」
・プラナリア班「水質によるプラナリアの記憶への影響」
準備の時間には、生徒たちはポスターをパネルに掲示するとすぐに発表練習を開始し、交代で聞き手役となって時間を計ったり、想定質問を確認し合ったりしていました。そして発表時には、審査員や来場者、他の参加校の生徒の質問にも丁寧に堂々と応答し、一方的に伝えるということだけでなく、訪れた人に面白さや楽しさを伝染させ、疑問を共有して一緒に考えることもできるようになっていました。
今回、口頭とポスター、2つの研究班がミドリムシに関する発表を行いました。本校でのミドリムシの研究は2016年、当時の高校SSC1年生の取り組んだ「ミドリムシが水耕栽培に与える影響」が始まりでした。水耕栽培の酸素供給源として光合成をする微生物であるミドリムシを用いたらどうなるか?という着想と、小さなミドリムシを一匹ずつ顕微鏡で観察しながら数を数える地道な日々が礎となって、今の後輩たちの研究活動を支えています。
また、MSTCの生徒たちはゼミの時間や放課後の自主活動の時間の中で多くのコミュニケーションを交わし、自分たちのことだけでなく他の研究班がどんなテーマに取り組み、現在どんな課題解決をしようとしているのかを共有しています。探究することが日常の中に溶け込み、互いの真剣な姿を目の当たりにすることで刺激される環境が、ヨコのつながりを生み、今回の水素ガス・ミドリムシ班の共同研究を実現させたといえます。
今回ポスターセッションに参加した生徒たちからは、
「はじめての外部発表で、学園祭の来場者とは違って予備知識がある人たちとの質疑応答は大変だった」
「条件の設定が緩かったことがわかったので、その点を修正したい。研究の方向性を考えるようになった」
などの声が聞かれました。
優秀賞を受賞したグループでは、「抗生物質に着目したポスターがなく独自性があったためではないか。また学園祭後、再現性の問題をクリアしたり、菌の系統などを明らかにするなどさらに研究を進めた。学園祭時点でのデータでは賞をいただけなかったのではないかと思う」と自己分析をしつつ、「ポスター発表中に気付かされたことがあり、これからそれを実験して明らかにしていきたい」と、すでに視線の先にはこれからの研究への展望が開かれていました。
この大会には、「多彩な熱の融合が創り出すエマルジョン」というテーマが掲げられていました。2日間を通じて生徒たちは、多くの同世代の仲間がいることを知るとともに、その分野を専門とする研究者から今後につながる示唆や、大学をどう選ぶかといった進路選択に関するアドバイスもいただきました。先輩から受け継いだ地道な努力を続けられる情熱と、仲間に触発されて広がりをみせる探究心、縦にも横にもつながっていくサイエンスラボでの時間が、さらに外の世界にも広がって融け合い、未来へとつながっていくような機会となりました。