未来視点の広告づくりー2017基礎ゼミ活動報告(2)

授業

中学2〜3年の本科クラスで実施している基礎ゼミナールの中で、言語学の分野を対象とする『ことばを科学する』ゼミでは8月29日(火)、株式会社博報堂主催によるワークショップを行いました。「未来の視点から広告をつくってみよう」というテーマで、Sustainability(持続可能性)の観点で開発された実在の2つの商品キャッチコピーを考え、広告づくりに取り組みました。今回は、博報堂の方々に加え、商品開発・販売に携わる企業の方々もいらっしゃって講義をしていただきました。

INTRODUCTION ー広告はどうつくる?

はじめに博報堂・山田聰さんから広告づくりのイントロダクションです。年間1000本におよぶテレビCMをはじめ、ポスター、動画など多様な広告を日々生み出している博報堂。これら広告をつくる上で共通しているポイントのひとつは「インプットの重要性」だといいます。話を聞く、データを見る、現場を見る、生活を振り返る、「そうなんだ!」を見つける、こうしたインプットをもとにみんなで話し合いながら大切なこと、伝えたいこと=コンセプトを導き出し、広告としてアウトプットします。

 

ひとつの商品の背景にはたくさんの物語が広がっており、それを知り、学び、仲間と語り合うことが文章表現や表面的なデザインよりも重要であると話してくださいました。今回生徒たちが対象とする2つの商品にも地球規模の環境・社会問題の背景があり、まずはその物語を知ることから広告づくりは始まります。

 

そして頭で考えるだけなく、体で感じることも大切、ということでアイスブレイクから。「好きな寿司ネタは?」「なりたい動物は?」といったお題に対して、声を出して周りに呼びかけ、同じ考えの仲間を探します。簡単なことですが、自分の思いを発して、相手の考えを聞くというコミュニケーションの根っこに関わる大事な準備運動です。

 

もうひとつは、これから広告をつくる商品の物語にも関わる「トリプルボトムライン」を体感するアクティビティです。「私たちが生きる世界において『経済』『社会』『環境』のうち一番大切だと思うものはどれだろう?」という問いに対し、手をあげる生徒たちの考えは割れました。そこでフラフープが取り出され、グループで協力して指を離さないように地面に下ろしてみました。

 

頭ではわかっていても上手くコントロールできないフラフープ。すると自然と互いに声を掛け合ったり、コントローラーの役割をする人が出てきたりして、なんとかバランス良く着地できました。経済・社会・環境、そのどれか一つだけが突出して上手くいけば私たちの暮らしは成り立つわけではありません。この3つの要素がそれぞれにはらむ問題をみんなで協力して解決していかなければならないのです。生徒たちはここで、頭では分かっていたかもしれないことを、体で感じられたのではないでしょうか。

INPUT① ーSDGsと未来を変える買い物

ウォーミングアップが済んだところでインプットのパート、商品の背景の物語へと入っていきます。まずは博報堂・兎洞武揚さんから今回の物語のキーワードのひとつ「SDGs」についての説明です。SDGs=Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)とは、2015年9月に開催された「国連持続可能な開発サミット」において掲げられた17の目標です。貧困や飢餓の撲滅、質の高い教育や健康と福祉など、開発途上国の開発支援に関することだけでなく、クリーンエネルギーや持続可能な消費と生産、まちづくり、さらには気候変動など地球環境に関するトピックもあり、先進国も含めて世界全体で取り組まなければならないゴールが提示されたのです。

 

「SDGsを実現するために自分達には何ができるだろう?」

私たちにとってSDGsが大切な目標であることは理解できても、その実現にどんな貢献ができるでしょうか?すぐには答えの出せないこの問いを考える手がかりとして生徒たちに示されたのが、買い物で未来を変えていくプロジェクト『EARTH MALL』でした。最も日常的で身近な「買い物」に関わる「買い手」の意識を未来へ向けて変えていけば、「作り手」の意識も変えることができる。そうして経済の循環が変われば地球の未来も変わるのではないか、という、SDGs達成に向けて私たちが自分ごととして考えるためのフレームとなるプロジェクトです。

 

博報堂・吉田裕美さんにEARTH MALLのお話をうかがいながら、現状の買い物に対する問いかけや、その問いかけに対する提案としての「認証ラベル」について描かれた動画を見た後、生徒たちで気づいたこと、感じたことをシェアし「買いすぎや売れ残りの問題について、地方と都市のミスマッチなどもふまえて考えていきたい」「森林が伐採されていることは知っていたものの、具体的な数値を聞いたことがなくて実感がわかなかったが、例えが身近でわかりやすかった」「魚の養殖のために天然の魚を減らしていることや海の環境を破壊していることなど、自分達の利益のために環境破壊を起こしていることが分かった」といった感想・意見が出ました。

INPUT② ー作り手・売り手の思いに触れる

「SDGs」「未来を変える買い物」と、これから広告をつくる商品の物語は進んできました。つづいては対象となる商品の作り手の方々から直接、その商品の背景をうかがいます。

 

<骨取りさばの味噌煮>
ひとつめの商品は、株式会社極洋が日本生活協同組合連合会(以下コープ)の商品として開発した「骨取りさばの味噌煮」です。極洋・秋山光弘さんからは、地球温暖化により海水温が上昇し、魚が北上しているといった漁業の現状や、水産資源を将来の世代に残すための漁業の方法として、漁師は科学的に検証された再生産できる部分だけを獲るなどの取り組みを行なっていることについてお話いただきました。

 

その「持続的な漁業」を消費者自身が評価する方法として「MSC認証」があります。MSC認証制度は、持続可能性・漁業が生態系に与える影響・漁業の管理システムといった条件が満たされた漁業であることを認証する「漁業認証」と、流通や加工の過程で、認証・非認証の水産物が混ざることを防ぐ「CoC(Chain of Costody)認証」から成ります。「さばの味噌煮」はこのMSC認証のほか、環境に負担をかけず地域社会に配慮して操業している養殖業に対する国際認証である「ASC認証」も取得している商品です。

 

また、この商品を販売しているコープ・松本哲さんからは、「一人一人の思いから生まれるコープ商品」というコンセプトや、販売する商品を通じて実現したいこととして掲げる5つのことー「安全・安心、より良い品質を追求」「くらしの声を聞き、価値あるものをつくる」「想いをつなぎ、共感を広げる」「食卓に笑顔と健康を届ける」「地域と社会に貢献」ーについて語られました。

 

<ヤシノミ洗剤>
もうひとつの商品はサラヤ株式会社の「ヤシノミ洗剤」です。サラヤ・代島裕世さんより持続可能なパーム油と生物多様性保全の取り組みなどについてお話しいただきました。洗剤の原料となっているパーム油は、非食用・食用どちらにも用いられ、人類で最も使われている油と言われています。パーム油が抽出されるアブラヤシは、暖かく、雨が降るが風が吹かないといった気候条件を満たす赤道直下で生育します。東南アジアの島・ボルネオでは、アブラヤシ農園の開発のために熱帯雨林が伐採され、一帯の生態系が分断されてしまいました。

 

この事態を受けてサラヤは2005年、人権や環境などに配慮した持続可能なパーム油産業のあり方が話し合われる「持続可能なパーム油のための円卓会議(RSPO)」に加盟。ボルネオの環境保全活動を行うことを表明し、ボルネオゾウの保護活動も始め、以降「RSPO認証」のパーム油を商品に採用しています。さらに2008年には、BCTJ(ボルネオ保全トラストジャパン)を設立し、農園開発により失われた熱帯雨林を買い戻し、野生生物が行き来できる「緑の回廊」を回復させる計画を推進しているそうです。

 

ここまでのインプットの時間の中で、日常的に食べているもの、使っているものに、壮大な物語があったことが分かりました。そして何より、その作り手・売り手として地球が直面している問題に対して実際にアクションを起こしている人たちの熱い思いを目の当たりにすることができました。

OUTPUT ー自分の胸に芽生えたもの

さあ、ここからアウトプットのパートとなります。ここまで読んでいただいた方は感じていると思いますが、膨大な量のインプットがありました。それも、ただ知識を詰め込んだのではなく、今すぐには答えの出せない問い、答えを出してもそれが必ずしも全員にとって正解ではない問いが、随所に散りばめられていました。

 

まずは、これまでの時間を通して「いちばん心に残ったこと」を自分自身に問いかけます。今度はそれをグループで話しながら、模造紙に書き出していきます。たくさんのインプットで頭の中はパンク寸前かもしれませんが、一人ひとりが考え、みんなと話し合いながら、伝えたいアイデアの芽を見出していきます。話し合いがひと段落し、次の段階に移るタイミングで兎洞さんから声がかかりました。

 

「もう一度、自分一人で、いちばん心に残ったことを考えてみよう」

ほんのすこしのあいだ、生徒は自身にもう一度問い直します。ひとときの静寂の中、それぞれの胸に芽生えた「いちばん伝えたいこと」にフォーカスしていきます。

 

そうして見つけた「いちばん伝えたいこと=コンセプト」をもとに広告コピー(キャッチコピー)をつくります。コピー以外の要素(デザイン、写真、商品説明文など)を整えたポスターおよそ20種類の中からインスピレーションの働いた数枚を選び、まずは10本コピーを書きます。今度はそれをグループでシェアし、相手のコピーに対していいと思ったものを選びます。こうして各自最終候補を決めて、そのアイデアをブラッシュアップする作業です。

 

博報堂の山田さん、吉田さんを中心に、兎洞さん、原節子さんもグループの話し合いにファシリテーターとして参加してくださいました。「この写真とこのコピーで安全・安心ということばの意味するところは伝わるか?」「『やさしい』って曖昧なことばじゃない?どうしたら受け手にその『やさしさ』が伝わるかな?」「『主婦』と対象を限定することは、説得力を高める半面、それ以外の人たちを排除することにもなってしまうよね?どう表現したらいいかな?」などのアドバイスに対して、生徒は自分の見つけた「芽」に真摯に向き合いながら、よりよいアウトプットを引き出そうと食らいついていきました。

 

こうして決定したコピーをポスターに書き、無事全員が発表に至りました。秋山さん、松本さん、代島さんにも講評をいただき、それぞれのお名前を冠した優秀賞も発表され、ワークショップは終了です。発表する生徒の表情は、照れくさそうにしながらも自信が感じられ、どのポスターにも彼ら彼女らの胸に芽生えた思いが、たしかに輝いて存在していました。

 

生徒たちはこの広告づくりを通して、自分の中に芽生えた思いを「ことば」で表現することの難しさ、面白さを味わうとともに、「ことば」で「社会とつながる」ことを体感できたのではないでしょうか。そして、持ち帰った「ただひとつの正解などない問い」を考え続け、その先の未来へとつなげてください。

 

*生徒の広告コピー*

 

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